サルでもわかるTPP大筋合意 「国家安全保障」

日米両政府は、交渉最終盤では妙に妥結を急いだように見える。

その理由は、オバマ大統領のこの発言に表れているんじゃないだろうか。

オバマ「中国のような国に~」

「中国のような国に世界経済のルールを書かせることはできない。我々がルールを書き、米国製品の新たな市場を開くべきだ」 (2015年10月5日、TPP大筋合意を受けて発表されたオバマ氏の声明)

2015年、中国がAIIBを創設し、世界経済を牛耳ろうと乗り出したことに対し、アメリカは強い警戒感・危機感を抱いているのだ。

習近平「あっと驚くインチキイカサマ銀行」とも揶揄されるAIIBだが、アメリカが止めたにもかかわらずイギリス、ドイツ、フランスなど、自分の仲間だと思っていた国々が参加を表明してしまい、アメリカは自らの覇権が失われそうになっていることに愕然とした。そこで中国への対抗策として、中国抜きの経済同盟を早急に確立させたかったんだろう。

USTRのウェンディ・カトラー次席代表が2015年10月TPP交渉アトランタ会合のキックオフパーティーで「グローバル経済時代の貿易協定に、アメリカが関係しないvacume(真空状態)を つくってはならない」と発言したのも、同様の主旨だと考えられる。

一方、日本政府は、中国の軍事的脅威に備えるためには、アメリカとの同盟強化が必要不可欠であり、そのためにアメリカの望む TPPを推進しなければ、と考えているふしがある。
中国は軍事的拡張の野心を隠しておらず、それに対する警戒は確かに必要だ。

中国は東・南シナ海を自国の領海と主張していて、2014年には地図上でもそれを強調するため、自国の地図を従来の横長から縦長に変更している。

点線に囲われた部分が新しく加わった
2014年06月27日ⓒ 中央日報/中央日報日本語版

そして、南シナ海の浅瀬を次々と埋め立て、軍事基地を続々と建設している。

南シナ海の人工島このままだと中国は南シナ海を往来する各国の船の航行を妨げたり、中国の許諾を得ない限りは航行してはいけない、などと勝手に宣言して、それを盾に周辺国に言うことを聞かせようとしたりするかもしれない。南シナ海は世界の貿易量の40%が通過する交通の要衝だ。日本が中東から輸入する石油の大部分はここを通るし、ASEAN各国との貿易にも南シナ海の航行の自由は欠かせない。ここを中国が封鎖したりすることがあれば、日本経済は大打撃を被る。

シーレーン地図cutまた近年では、「尖閣のみならず、沖縄も日本の領土ではない」と、あたかも沖縄まで中国のものであるかのような意見が、中国共産党機関紙、人民日報に掲載されたりもしている。

人民日報ー沖縄領有を示唆
東京新聞 2013年5月8日

中国外務省付属機関の人間が、「日本は北方領土、竹島、尖閣諸島にくわえて沖縄も放棄すべきだ」と中国、韓国、ロシアによる国際会議の席で公式に演説したこともあるし、そのために反日統一共同戦線をつくろう、と呼びかけたりもしている。(参考資料

反日統一共同戦線

 

2007年には中国軍幹部が「太平洋をアメリカと中国で分割管理すること」を米国の太平洋軍司令官に提案したこともある。(参考資料

太平洋を分割管理しよう

大手マスコミはちっとも報道しないが、これらは重要な事実だ。

そういうことを考え合わせれば、「環太平洋」の文字通り、太平洋をグルリと囲むこのTPP参加国の地理的条件は、とても大切なもののようにも思えてくる。この地形を生かし、よい形の協力関係がつくれれば、本当はよいのだが……。
だから、このTPP参加国の枠組みを大切にし、TPPの中身だけをより良いものに変えていけばいいんだ、などと主張する人もいる。

そんなことが可能ならばいいけれど、どうにもこうにも、それは無理なんじゃないか、とボクは思ってしまうんだ。

そもそもTPPは大企業の大企業による大企業のための協定だ。大企業が自分たちに都合のよいように、各国政府の法や規制を変えさせる、各国の主権の一部を奪い取る、それこそがTPPの本質である以上、どう逆立ちしたって、庶民に良い内容になんてなりっこないんじゃなかろうか。

それに、国家安全保障の3本柱はエネルギー、軍事、食料と言われるが、TPPでは日本の農業は守れず、食料自給率はさらに下がることが予想される。

国家安全保障の3本柱かつてフランスのドゴール大統領は「食料を自給できない国を真の独立国とはいえない」と言ったのだが、まさにそのとおり。食料がなければ人間は生きていけないんだから、食料を他国に依存するということは、生殺与奪権を他国に握られてしまうということなんだ。

食料を依存させることによって、隷属させる、それがアメリカの国家戦略だ。TPPで食料自給率が下がれば、日本のアメリカ隷属はさらに進んで、そこから抜け出すことがどんどん難しくなっていく。

いつの日にか、日本がアメリカをも中国をも恐れぬ、真の独立国になる……それがボクの希望だ。新技術の開発でエネルギーを自給し、食料も完全に自給するようになって、初めてそれが可能になる。そんな将来を実現するためには、今でも低すぎる食料自給率をこれ以上低くしてはいけないし、主権の一部を外国企業に譲り渡すなんてとんでもない。

やはりTPP批准は断固阻止! とボクはあくまでも主張したい。