サルでもわかるTPP(2012年3月バージョン)

第2章 「TPPで発展!」の勘違い

◆1.「農業のために工業を犠牲にしていいのか」のウソ

かつて前原外務大臣(当時)は、「農林水産業のGDP比はわずか1.5%。この1.5%を守るために、残りの98.5%を犠牲にしていいのか」という意味の発言をした。

この発言が盛んにマスコミに取り上げられたもんだから、TPP反対=農業を守ること←→TPP推進=工業輸出を伸ばすこと、と勘違いしちゃってる人がすごく多い。

日本はコメに高い関税をかけてる(700%以上)。TPPに入ると、関税がなくなって、外国から安いコメがたくさん入ってくるだろう。安いものに飛びつく消費者は多いから、日本のコメが売れなくなって、日本のコメ農家には大打撃だ。だから、TPPは日本の農林水産業に打撃を与える、というのは間違ってない。

でも、TPPに入らなかったら、残りの98.5%は本当に犠牲になるのかな?

日本が輸出で稼げるものといえば、自動車、家電製品など(「耐久消費財」と呼ぶよ)が主。では、耐久消費財の輸出額はどれだけかというと、GDP比1.652%しかない(2009年度)。

なんだ、農林水産業の1.5%とたいして変わらないじゃん!てことがわかる。

輸出業全体でもGDP比は11.5%しかない。残りの98.5%が犠牲になるなんて、大ウソ。

国内でのサービス業(GDP比20.8%)や卸売・小売業(同13.1%)の方が、日本経済で大きな比重を占めている。日本は貿易で食べている国というよりも、内需(国内の需要)でもっている国なんだ。

◆2.「関税なくせば輸出が伸びる」のウソ

輸出入に関わる税金が「関税」。

参加国の間で、これを全部無くしてしまおう、というのがTPPの基本だ。

TPP推進派は、関税をなくせば、輸出先での値段が安くなり、日本の工業製品が売りやすくなる、と言っている。

でもホントにそうかな?

たとえば、アメリカが日本のテレビを輸入するとき、そこにかかる税金は0~5%、自動車の場合は2.5%

仮に1ドル100円のときに日本で100万円の自動車があるとする。100万円=1万ドル、関税の2.5%を足すと、1万250ドルになる。それが関税をなくせば1万ドル。なんだか、たいした違いじゃないような気もするね。でも少しでも安くなれば多少は売りやすくなるかな。

でも、円高になったらどうなるだろう?

1ドル90円になれば、100万円=1万1111ドル。おやおや、関税がなくなっても、円高になると、売値は高くなっちゃうぞ。

つまり現代では、関税が既に結構低いので、製品の売りやすさにはあまり関係しないんだ。

それより為替、つまり円がドルや他の通貨と比べて、高いか安いかのほうが、ずっと大きな問題なんだよ。円高になると、どうしても輸出品は売りにくくなる。

だから、関税をなくしたからと言って、工業製品が売りやすくなる、っていうのは大きな勘違いだ。

今韓国製品の売れ行きがいいのは、韓国の通貨ウォンが下落しているから。2008年9月以降、ウォンが40%も下落したため、いつも4割引セールをやっているようなものなんだ。

◆3.「TPPでアジアの成長を取り込む」のウソ

TPPを推進したがる人たちは、「TPPに加盟することで、日本はアジアの成長を取り込める」と言っている。

でも今急成長しているアジアの国といえば、中国、韓国、インドだけど、このいずれの国もTPPに入るなんて、言ってない。

TPP参加国の多くは小国で、モノを大量に買うような経済力は持ってないんだ。GDP比で見ると、アメリカが7割、日本が2割、残りの8か国で1割。つまり実質的にはアメリカと日本の2国間の協定のようなものなんだ。

ではアメリカが日本の製品をいっぱい買ってくれるようになるかというと、その可能性は低い。今アメリカの経済もものすごく落ち込んでいるからね。

それよりむしろ、アメリカから日本がモノを買わされるようになると思ったほうがいいだろう。なにしろオバマ大統領は、「今後5年間で輸出を倍増する」と2010年1月に宣言している。アメリカがTPPで輸出を大きく伸ばすとしたら、その相手は日本以外にあり得ないんだ。

◆4.じゃあ、どうすれば輸出が伸びるの?

過去の例を見ると、日本の輸出が伸びるのは、アメリカ国内の景気がいいとき。

なんといっても、アメリカは世界一の経済大国。人も多いし、経済力もあるから、景気がいいと、みんな金回りがよくなって、いろんなものを買う。すると、日本のモノも売れる。

でも、景気が悪くなると、みんなお金を使わなくなる。だから、日本のモノも売れなくなる。単純な話だ。

これは、アメリカ国内の問題であって、関税とは関係ない。日本人がどうにかしようと思っても、どうにもできない問題なんだ。

輸出を伸ばしたいなら、TPPよりも、円をもう少し安くする政策を考えた方がいい。