サルでもわかるTPP(2012年3月バージョン)

第5章 TPPでは幸せになれない

◆TPPでは幸せになれない

自由貿易は失業の輸出でもある(→第9章参照)。

実際に貿易、投資等を自由化したNAFTA(北米自由貿易協定)では、大量の失業者が生まれた。

NAFTAが成立するとアメリカ企業は人件費の安いメキシコにどんどん移転した。そのおかげでメキシコ国内では工場での雇用が増えた。けれども工場が減ってしまったアメリカでは、当然ながら失業者が増えた。

それにアメリカが補助金つきの安い農産物を大量にメキシコに輸出するもんだから、メキシコの農民は価格競争に負けて、大勢の農民が農業をあきらめざるを得なくなった。農家をやめて新しい職を探しても見つからない。そんな人の一部は移民となってアメリカへ渡った。そして、さらにアメリカ国内での失業は増えた……。

こうして、メキシコでは約200万人が失業した。アメリカでは、NAFTA(1994~)やWTO(1995~)などの自由貿易協定の影響で、製造業で働いていた500万人もが失業したといわれる。これは製造業に携わる人の、実に4人に1人に当たる数字だ。(アメリカのNGO「パブリック・シチズン」のロリ・ワラック氏による)

つまりNAFTAやTPPなどの自由貿易協定、経済協定を結んでも、利益を得るのは大企業のトップだけ。一般庶民は豊かになるどころか、逆に失業や賃金の低下で苦しめられることになる。社会全体にとってはちっともプラスにならないんだ。

今アメリカの失業率は白人で8%、黒人では16%にものぼる。貧しさゆえに政府から食費の補助を受けている人(フードスタンプ受給者)は、2000年以降どんどん増えて、今では4700万人もいる。これはアメリカの人口の15%だ。

経済の指標となるGDP(国内総生産)は上がっていくけれど、国民は豊かになっていかない。逆に貧しい人が増えていく。

これはアメリカも日本も同じだ。

国全体の経済と一般庶民の給料とが比例して伸びて行った時代は終わった。

日本でもGDPはじわじわと上がり続けているけれど、日本人の平均年収は1997年(平成9年)からほぼ下がる一方になっている。

これは株主や経営者だけが利益をむさぼって、労働者は搾取されているということだ。だから日本でこんなにワーキングプアが増えてしまったんだ。

そんな格差社会をより一層進めるのがTPPだ。

オバマ大統領も就任前はNAFTAを批判し、将来決してNAFTAのようなスタイルの協定は結ばない、と明言していた。それなのに今TPPを成立させようとしていることで、良識あるアメリカ国民からも反撥を買っている。

NAFTAがよい結果を生まなかったとわかっているにも関わらず、オバマ氏がTPPを成立させようとするのは、大統領でさえ既に大企業の力を抑えきれないからだろう。日本の政治家も経団連の言いなりだ。

でも、ここで日本がTPPに加盟してしまったら、大企業はますます大きな力を手に入れ、日本という国家を超えた権力を持つようになってしまう。

「グローバリゼーション」という言葉をキミは聞いたことがあるだろう。直訳すると「地球規模化(あるいは世界規模化)」。人、モノ、金、情報の移動が世界規模になり、世界の境界がなくなっていくこと、という程度に日本では理解されている場合が多い。国境を越えて世界がひとつになるなんてすばらしい、といい意味に解釈している人もいるだろう。

でも、欧米ではこの言葉は通常、悪い意味で使われる。

巨大多国籍企業が、国境を越えて事業を展開し、世界中から富をむさぼる。そしてときに国家を超えた強大な権力を持ち、人々を抑圧し、搾取する。それがグローバリゼーションだ。

TPPはこの悪い意味でのグローバリゼーションを強力に推進する協定だ。

大企業が自分に不都合なことはすべて「非関税障壁だ、撤廃しないと訴えるぞ」「外国企業への差別だ! 訴えるぞ」と脅してゴリ押しし、国の法律まで捻じ曲げてしまうことができるようになる。国家以上に巨大な権限を企業に与えてしまうんだ。

こんな理不尽で異常な協定を、絶対に成立させちゃダメだ。

経団連がTPP加盟を急ぐのは、急がないとウソがばれちゃうとわかっているから。

全速力でそのウソをばらそう!

日本国が終了してしまう前に!