サルでもわかるTPP(2012年3月バージョン)

第4章 なぜ日本は加盟したい?

◆1.企業の海外進出が有利に

TPPは日本の一般的な市民にとって何一つメリットのない協定だ。

それがわかると、今度は別の疑問が浮かんでくる。

一体なんでそんなものに、日本は加盟しようとしているのか、ということだ。

TPPに加盟しよう!と一番勢い込んでいるのは「経団連(日本経済団体連合会)」という団体だ。

経団連は日本の大企業の集まりで、その会長はいわば財界のボスのようなもの。大企業に都合のいい政策を取るように政府に働きかけるのが役割だ。その経団連が「日本はTPPに加盟するべきだ」と執拗に政府に迫っている。

ちなみに経団連の現会長は住友化学会長。

副会長はたくさんいて、その所属企業は全日空、三井不動産、トヨタ自動車、東芝、新日鉄、日立、小松製作所、NTT、三菱商事、三菱東京UFJ銀行、丸紅、JR東日本、第一生命、三井住友フィナンシャルグループ、日本郵船、三菱重工。

こうした企業がTPP加盟に賛成する理由はいくつかあると思う。

たとえば、大手の製造業なら、いろんな材料や部品を外国から輸入しているが、その際に関税がなくなれば原料費が抑えられる。

また、外国から安い賃金で働く労働者が入ってくれば、人件費を安く抑えられるかもしれない。

でも日本にいる限りは最低賃金の足かせは外せない。それよりもっとずっと人件費を安く抑える方法がある。それは海外へ工場を移転してしまうことだ。

ベトナムあたりに行けば、人件費はずーっと安い。しかもたいていの発展途上国では排水や排ガスなどの環境基準が、日本よりもかなり緩い。労働者を安く使えて、環境を汚しても、文句を言われない。これは企業にとってはオイシイ話だ。

そんなオイシイ海外進出を、よりスムーズにしてくれるのが、TPPなんだ。

TPPに加盟すると、進出してきた外国企業を、国内の企業とまったく同様に扱わなければならない(これを「内国民待遇」と呼ぶよ)。

例えば、今ベトナムでは外資系企業と国内企業とで最低賃金が違う。もちろん外資系企業の方が高い賃金を払わなくちゃいけない。外資系企業はどうせ金持ちなんだからたくさん払ってくださいよ、ということだ。経済格差を考えたら、当然の発想ともいえる。それに国内企業を保護する意味合いもある。小さな発展途上国の企業は当然規模も小さいだろうし、競争力も弱いだろう。それと外国企業を対等の条件で競わせたら、負けてしまう。だから外国企業には多少ハンデをつけておこう、というわけだ。国が自国民や自国の企業を守るために働くのは、当然のことだからね。

ところが、こうした外資系企業と国内企業との間にハンデをつけるような政策は、TPPが成立したらもう許されない。「内国民待遇を犯している」「外資系企業の差別だ」として、政府が外資系企業に訴えられてしまうんだ。

だから、TPPに加盟しておけば、企業にとってはオイシイ海外進出が、ますますオイシクなるというわけだ。

外資系企業を差別するのはおかしい! とか、商売は対等な条件でさせろ! とか、国内企業だけ優遇するのは、フェアじゃない! とか主張する人がいるけれど、よく考えたらそんなのはチャンチャラおかしい。繰り返すけど、国が自国民や自国の企業の利益を守るのは当然のこと。それこそが国の役目じゃないか。

アメリカのコメディ映画で、会社をリストラされそうになった男性が突然「僕はゲイだ」「これはゲイへの差別だ!」と騒ぎ立ててクビになるのを免れる(本当はゲイじゃないのに)というのがあるんだけど、それと同じくらいムチャクチャな話だ。

大企業は自分たちに都合のいい考え方を人々に吹き込むために、「差別はよくないこと」「フェアであることが大事」「自由であることはよいこと」といった基本的な価値観を利用してうまく言葉を選んでくる。それにだまされちゃいけないよ。

◆2.日本の金融機関ももうかる

経団連の副会長には三菱東京UFJ銀行の会長と、三井住友フィナンシャルグループの会長も入っている。経団連がTPPを推進したいのは、参加企業に金融機関が多いというのも理由だ。

金融自由化と円高を利用すれば、日本の金融機関は海外の金融機関を食いものにできる。

それに日本の「ゆうちょ」と「かんぽ」(267兆円)、農協共済(45兆円)など、莫大な資産を食いものにできるのは、アメリカの金融機関だけじゃなく、日本の金融機関も同じだ。一般市民には何の得にもならないけれど、大企業だけは得をする、という構図は、アメリカでも日本でも同じなんだ。

◆3.商社は表示の“自由”度が広がる

経団連には商社も多く、副会長には三菱商事と丸紅の会長が入っている。

商社は貿易が仕事だから、TPPによって関税がなくなれば、さらに安くモノが輸入できるようになって、確かに繁盛するかもしれない。

また、通関にかかる時間が短くなったり、植物や生鮮食品の検疫が簡単になったりもするようなので、それも商社にとってはうれしいポイントだろう。

さらに彼らにとってオイシイ話がある。それは商社にとって有利な「原産地表示」ができるようになるということだ。

TPPでは、いくつかの国の部品や材料をあわせてモノをつくる場合、モノの値段の45%以上の部品や材料がTPP加盟国でつくられている場合は、TPP加盟国で生産されたものとみなすことになっている。

たとえば化粧品をつくるとき、日本の材料が商品の値段の45%以上を占めていれば、中国でそれを混ぜ合わせて加工しても、「メイド・イン・ジャパン」と表示できる。

「メイド・イン・ジャパン」の化粧品は高級なイメージがあって、アジアでは庶民の憧れの的といったところだ。対する「メイド・イン・チャイナ」は……。この違いは決定的といってもいい。

TPPに加盟すれば、こんなまやかしも、合法になってしまうんだ。

◆4.TPPをめぐる情報操作

TPPに加盟すると、日本企業の海外進出がますます有利になるから、工場の海外移転が進むだろう。でも、工場が海外に移転する、ということは、そのぶん国内の工場がなくなってしまうということだ。働き口がなくなることに対して、労働者の権利を守る労働組合は当然激しく反発するだろう。

だから「TPPに加盟すると工場移転が進む」のは、内緒にしておきたい、と経団連は考えたはずだ。

そこで「TPPに入ると農業は打撃を受けるかもしれないけど、日本にとっては農業より工業のほうが大事だろ」っていうふうに論理をすり替えてしまった。

それにマスコミが飛びついて、そればかり報道するもんだから、工業関係の人たちは、みんな「そうだそうだ、工業のほうが大事だ。だからTPPに入ったほうがいいんだ」というふうにコロっとだまされてしまった。

新聞やテレビは広告収入がなければ経営が成り立たない。だから広告主の集まりである経団連に対して批判的な報道はしないんだ。

だからマスコミが真実を報道することは期待できない。

真実を知った人がそれを周りの人に伝えていくしかない。

わたしたちがやっていくしかないんだ。

周りの人に伝えて、どんどん仲間を増やしていこう。